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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1685号 判決 1970年10月12日

原告

浜田修

外五名

代理人

石井銀弥

被告

東京海上火災保険株式会社

代理人

田中登

主文

原告らの本位的請求および予備的請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら「被告は原告らに対し各金四〇万円およびこれらに対する昭和四四年九月一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告主文同旨の判決および原告ら勝訴の場合担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二  原告らの請求原因

(本位的請求原因)

一、訴外亡浜田一郎(以下亡一郎と略称する)は、昭和四三年一月二六日午後六時頃、東京都北多摩郡村山町中藤一四六〇番地村山団地内の中央通り十字路において、訴外塚田勝士が保有し運転する軽四輪乗用自動車(練馬え六七八〇四号、以下加害車という。)に追突されて負傷した。

二、そこで亡一郎と訴外塚田との間で、立川簡易裁判所昭和四三年(ノ)第四九号交通事故における損害賠償調停事件において、訴外塚田が亡一郎に対し右受傷に基づく損害を賠償する旨の調停が成立し右は履行されたが、亡一郎はその後昭和四四年三月二六日死亡するに至つた。

三、原告らはいずれも亡一郎の子でその相続人であるところ、原告らは訴外塚田を相手方として同簡易裁判所に右死亡に基づく損害賠償請求の調停を申立て昭和四四年(ノ)第四二号交通事故における損害賠償請求事件として係属し、昭和四四年八月八日、訴外塚田は亡一郎が本件事故により死亡したことに基づく慰藉料として、原告ら各自に金四〇万円宛の支払義務があることを認め、これを同年八月末日限り支払う旨の調停が成立した。

四、訴外塚田は加害車に関し、被告との間に自動車損害賠償保険法(以下自賠法という。)所定の責任保険(以下自賠責保険という。)契約を締結していた。

五、そこで原告らは被告に対し、自賠法第一六条第一項に基づき同年八月二五日各金四〇万円の支払いを請求した。

六、右条項により、被保険車両の保有者たる訴外塚田の損害賠償責任が発生したときは保険会社たる被告は被害者たる原告らの請求に応じて直接原告らに保険金額の限度で損害賠償額の支払いをなす義務があるところ、その損害賠償額は右調停によつて訴外塚田と原告らの間で確定しており、しかも調停は確定判決と同一の効力を有するのであるから、被告はこれに拘束され、もはや原告らと訴外塚田間の損害賠償義務とその内容を争うことはできないものというべきである。従つて被告は右調停により確定した損害賠償額を原告に対し支払う義務がある。

七、仮りに被告が右調停の結果に拘束されないとしても、亡一郎の死亡は本件事故に基因するものであり、これにより原告らは精神的苦痛を被り、これを償うべき慰藉料額は前記金額を下らない。従つて訴外塚田は加害車の運行供用者として原告らに対し右金額の損害賠償責任を負担したのであるから、被告は原告らに対し右賠償額の支払いをする義務がある。

八、よつていずれにせよ被告は原告らに対し自賠法第一六条第一項に従い、各金四〇万円とこれに対する右請求の日の後である同年九月一日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(予備的請求原因)

九、原告らは訴外塚田に対し前三項のとおり確定した損害賠償請求権を有し、同訴外人は被告に対し同額の保険金請求権を有するところ、同訴外人は原告らに右債務を支払う資力がないので、原告らは民法第四二三条により、右損害賠償請求権を保全するため同訴外人の被告に対する右保険金請求権を同訴外人に代位して行使する。

よつて被告は原告らに対し前項同様の金員を支払う義務がある。

第三  請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因一項の事実中、事故の時刻および追突されたとの点を除きその余は認める。時刻は午後六時二〇分であり、事故の態様は追突ではない。即ち、本件事故現場は広路と狭路との交わる交差点であり、訴外塚田は加害車を運転して広路を進行中、左方狭路から交差点に進入する亡一郎運転の自転車を発見して急制動をかけたが及ばず、加害車の前部を亡一郎の自転車右側面に衝突させ、よつて本件事故に至つたものである。従つて本件事故については訴外塚田にも過失があるものの、より以上に亡一郎にも過失がある。

二、同二項ないし五項の事実は全て認める。

三、同六項の主張は争う。自賠責保険において保険会社は、被保険者が被害者に対し損害賠償額の支払いをした限度において被保険者に保険金支払いの義務があり、また被保険者の責任が発生したときは被害者に対し直接損害賠償額を支払う義務があるが、いずれの場合においても被保険者が被害者に対し現実に負担または履行した賠償責任を当然にそのまま填補しなければならないものではなく、あくまで法律上適正な損害を填補すべき義務があるのにすぎない。また被害者の被保険者に対する損害賠償請求権と被害者の保険会社に対する直接請求権とは、それぞれ別個の請求権であり合一に確定されるべき関係にはなく、後者は前者と別にその当事者間において確定されるべきものであるから、前者が判決や調停等によつて確定したからといつてこれが当然に後者を拘束するものではない。保険会社が、被保険者と被害者間の責任関係が判決、和解、調停等により確定したときに、事実上これを尊重することはあるが、法律上その義務を負うものではない。

四、同七項主張の、亡一郎の死亡と本件事故との因果関係は否認する。本件事故による亡一郎の傷害は比較的軽傷で、内科的疾患を誘発すべき程のものではなく、死因は高血圧症を原因とする慢性腎炎に起因する尿毒症であり、本件事故とは全く関係がない。

五、同九項は争う。自賠法第一六条第一項により被害者の保険会社に対する直接請求権が認められている以上債権者代位権行使の必要性がないのみならず、同法第一五条により被保険者の保険会社に対する保険金請求権は被保険者において現実に支払いをした限度でのみこれを行使できるのであるから、訴外塚田が原告らに対し何ら支払いをしていない以上そもそも代位行使すべき訴外塚田の被告に対する保険金請求権が存在しない。

第四  被告の抗弁

仮りに請求原因六項の原告の主張が正当としても、右調停は左の理由において効力を有しない。

一、右調停は、相手方訴外塚田において原告らに対し亡一郎の死亡に基づく損害賠償義務を負担する意思は全くなかつたが、申立人たる原告らの示唆に基づいて、調停を成立させれば必ず保険会社たる被告からそれに応じて全額保険金が支払われ、自己に負担はかからないものと考え、また原告らにおいても訴外塚田から損害賠償の支払いを受ける意思はなく、専ら自賠責保険金取得の目的をもつて成立させたものであり、従つて当事者双方において調停により成立した支払義務を履行しまたは請求しようとの真意がなかつたのであるから、右は通謀虚偽表示に該当し無効である。

二、また仮りに右主張が理由がないとしても、亡一郎の死亡は本件事故と何ら因果関係がないのに、右調停手続において訴外塚田はこのことを知らず、因果関係があるものと誤信して調停成立に応じたものであり、右は要素に関するから、右調停は錯誤により無効である。

第五  抗弁に対する原告らの答弁

抗弁事実は全て否認する。なお事故と死亡との因果関係については、これが当事者間に争いになつたうえで争いをやめて調停が成立したのであるから、民法第六九六条により錯誤の主張は理由がない。

第六  証拠<省略>

理由

一、請求原因一項の事実は事故の時刻および事故態様の点を除き当事者間に争いがなく、同二項ないし五項の事実は全て当事者間に争いがない。

二、原告らは、本件事故の被害者たる原告らと被保険者たる訴外塚田との間の賠償責任額が両者の間で調停により確定している以上、原告らと保険会社たる被告との直接請求関係においても、被告は右確定した賠償責任に拘束されてもはやその内容を争いえない旨主張し、被告はこれを争うので、以下この点につき判断する。

(一)  元来一個の法律関係につき特定当事者間において訴訟上あるいは訴訟外でその確定がなされても、原則としてそれは当該当事者を拘束するのみであつて、これがその法律関係に法律上の利害関係を有する第三者を拘束するためには、特別の理由が存在しなければならない。

なるほど、自賠法一六条一項による被害者の保険会社に対する損害填補の直接請求権は、被害者の加害者(被保険者)に対する損害賠償請求権を実体上の前提とするが、この損害賠償請求権の存否および額が、被害者と加害者間(責任関係)および被害者と保険会社間(直接請求関係)の双方で判断確定されうるものである限り、責任関係における確定は、直接請求関係に対し当然に拘束力をもつとは言えない。

(二)  もつとも、このことを考える場合に、責任保険の特殊性を考慮しないわけにはいかない。責任保険は商法上の損害保険の一種ではあるが、保険損害の概念において他の損害保険と類を異にし、保険事故の原因たるべき事故によつてまず損害を生じるのは保険契約当事者以外の第三者たる被害者の身上であり、これに対する賠償責任の存否および程度の判断を経た後はじめて被保険者の損害を観念しうる、という特殊性を有する。すなわち、責任保険においては、被害者と加害者との責任関係と加害者と保険会社との保険関係との二段構えが三者間に当然に存在し、前者において定められる賠償責任額が後者における保険支払額の基準となる関係にある。従つて、責任保険においては、一般に、責任関係における賠償額の確定が保険金請求権行使の前提要件として要求されると解すべきものであり(当裁判所昭和四五年九月二八日昭和四四年(ワ)第七五八号事件判決参照、なお東京地裁昭和四五年一二月一日判決判例タイムズ二四三号一二六頁判例時報五八五号一六頁も参照)、このため、責任関係における賠償額の確定とは別に保険会社に対する直接の請求権が行使されることを考える必要のない自動車対人賠償責任保険すなわちいわゆる任意保険の場合には、賠償額具体化の手続が重ねて保険関係においてもなされるという二重の手間による無駄と、そのことによつて両者間における賠償額の判断が齟齬した場合の混乱を避けるためにも、賠償額確定手続は、まず、しかも一回限り、責任関係の当事者間においてのみ行わしめ、保険関係の当事者間で別に行われることはないのを原則とし、従つて、必然的に責任関係において確定された賠償責任が保険関係を拘束するのを原則とする、と解することが可能である(このように考えるについては、被保険者が被害者から損害賠償の請求を受けたときは遅滞なく保険会社に通知すべきこと、被害者に対し責任を承諾するにはあらかじめ保険会社の承認を得べきこと、被害者から訴を提起されたときは直ちに保険会社に通知すべきことなどの、自動車保険普通保険約款の規定が考慮されることはもちろんである。従つて、加害者が、保険会社の承諾なく賠償義務を承認し、あるいは被害者からの訴提起を保険会社に通知せず敗訴したような場合には、保険契約上の義務違反の効果として、例外的に、保険金支払義務の免責ないし減額を認める余地は残る。)

(三)  自賠責保険においては、被保険者の保険関係における請求権は、自賠法一五条の明文上、被保険者が被害者に支払いをした限度においてのみ行使しうるのであるから、責任関係の保険関係に対する基準性は、任意保険の場合に優る一面を有するのであるが、反面、同法一六条一項により被害者は保険会社に対し保険金額の限度で損害賠償額の支払いをなすべきことを請求できるので(直接請求関係)、任意保険の場合と異なり三者間に三面関係を生じ、責任関係と直接請求関係との関連も考えねばならないし、また、そのことが責任関係の保険関係への基準性にもそれなりの変容をもたらすことも認めざるを得ない。

思うに、直接請求関係における被害者の権利は、交通事故における被害者ないしその遺族の保護を厚くするため、賠償の資力が十分か否かも定かでない加害者を相手取つて賠償額確定の手続を取る迂路を省略し、直接保険会社に請求することを許すことによる救済の迅速と確実とを期して、被害者に認められたものであるから、直接請求権の基礎が責任関係における加害者に対する賠償請求権にあることは前述のとおりであつても、両請求権とも同一被害者に帰属し同一損害の填補を目的とする――故に一方の弁済により他方も消滅する――ものとして、その行使はそれぞれ独立になされうるとするのが、制度の趣旨であると解される。従つて、直接請求権の行使につき責任関係における賠償額の確定を前提条件とする必要はないこととなり、このことは、賠償額の確定手続も責任関係と直接請求関係とで各別になされうることを意味する。

つまり、賠償額確定の手続が、責任関係以外に、保険会社を一方当事者としても行われうることになる。保険会社にこのような立場を認める以上、責任関係における確定が保険関係当事者を当然に拘束するとの任意保険における法理をそのまま貫くことはできない。

結局、自賠責保険の責任関係と保険関係との間には、自賠法一五条の意味における基準性が存するのみで、前者における責任額の確定が後者ならびに直接請求関係を当然に拘束するとは言えないのであり、その限り前述の二重の手間という無駄を生じ、また確定賠償額が区々となつて混乱を生ずる可能性も否定しえないが、これらは、前記の被害者保護という立法理由に照らし、一応は己むをえないものとしなければなるまい。

(四)  ただ、右のような可能性は、完全に避けることはできないにせよなるべく少ない方が望ましいことは言うまでもない。責任関係と直接請求関係が別々の手続によつて確定される場合、どちらが先になるかによつて二つの場合を生じるが、ここでは、本件事案に即して責任関係が先に確定した場合に限定して考察する。

前示のように、加害者に対する請求権と直接請求権とは、それぞれ独立に行使しうるものではあるが、後者が前者を基礎として観念しうるいわば二次的な性格のものであることは否定しえず、その限度での基準性を認めないわけには行かないから、被害者が保険会社に対し既に責任関係で確定した賠償額を超えた金額の支払いを請求することは、逆の場合と異り、許されないものと解すべきである(それは、例えば、貸金債権者が主債務者に対する関係では既に主張しえなくなつた債権額を保証人に対して請求することが、保証債務の附従性に照らし許されないと解されるのと同様である)。

そこで残る問題は、本件のように、責任関係において確定した額を直接請求関係における債務者たる保険会社が肯認しない場合、責任関係の両当事者の期待が裏切られることとなる結果を認容すべきか否かである。

先に述べたとおり自賠責保険においては、責任関係において確定した賠償責任が直接請求関係における保険会社を当然に拘束するとは言えないのであるが、他方、加害者に対する請求権の直接請求権に対する右述の限度での基準性を認めざるを得ないこと、自賠責保険も責任保険としての性格においては任意保険と同質であること、右述のとおり二重の手間と区々な判断による混乱はできるだけ避けるべきこと等を考慮するならば、賠償額確定の手続が直接請求関係の当事者間で独自に行なわれうるとの前提に牴触しない限度において、そしてまた、手続に関与しなかつた者に対する拘束力を認めることによつてその者に不当な不利益を蒙らせない限度において、任意保険において保険会社に対し認められる前記拘束力に近い効果を、自賠責保険における責任関係と直接請求関係との間に認めるのが至当と思われる。

自動車損害賠償責任保険普通保険約款第七条第四号は、責任関係の訴訟が提起されたとき保険契約者または被保険者は、ただちに書面によりその旨を保険会社に通知すべき旨を規定している(訴訟通知義務)。従つて、この義務が履行される以上は、保険会社は当該訴訟に参加(少なくとも補助参加、場合により当事者参加)する機会を有するのであるから、その限り、責任関係の訴訟の結果に拘束されると解することが可能である。このような拘束力は、前示のような自賠責保険の性格から生ずる特有の法理として認めうるものであるが、その効果は、講学上のいわゆる参加的効力に準じて考えれば足りるであろう(従つて、保険会社が当該訴訟に参加しあるいはその機会を与えられた場合であつても、訴訟の被告たる加害者が、保険会社の明示の意思に反して自己に不利益な訴訟行為をしたため不利益な訴訟の結果に終つたような場合には、保険会社はその限度で拘束力から免れうることとなる)。このことは、右の訴訟通知義務の履行としてでなくとも、責任関係訴訟の当事者から訴訟告知がなされた場合を考えても、同様に論じうる(訴訟告知制度の本来の目的からいえば、この場合被保険者が後日保険会社に対して保険金請求権を行使するにつき被保険者に不利益を蒙らせないためにあるのであるが、強制保険の直接請求権は、これにより責任関係における賠償義務を免れさせることにその本質があり、右の免責は被保険者にとつて単なる反射的利益ではないと解すべきであるから、訴訟告知の効果は直接請求関係にも及ぶものと解して妨げない)。

そしてまた本件のように、責任関係の手続が調停手続に終始している場合においても、調停申立に対しては前記約款の文言上訴訟通知義務は生じないと見るべきではあるけれども、それにも拘わらず事実上、保険会社への通知がなされて、手続関与の機会が与えられたという事情があるのであれば、訴訟の場合と同様に、その結果確定された賠償責任が直接請求関係を拘束すると解する余地もある。

しかしそのような事情もない場合には、既に判示してきた理路により、保険会社が責任関係の確定賠償額に拘束されると見るべき理由はない。

(五)  以上の次第であるから、本件において、原告らと訴外塚田との間に成立した前記調停の内容が当然に被告を拘束するとは言えないし、また右調停に際し、あらかじめ調停に応ずべきことの承認を得たとか、あるいは被告に調停事件の係属が通知されて被告が事実上その手続に関与したとか少なくともその機会が与えられたとかについての主張も立証もないのであるから、結局被告は右調停の有効無効にかかわりなく、その内容に拘束されず、独自に本件事故と亡一郎の死亡に関する訴外塚田の賠償責任の有無およびその額を争いうるものといわなければならない。

よつてこの点の原告の主張は採用し難い。

三、次に、原告らは、亡一郎の死亡が本件事故に基因するものと主張するが、<証拠>によれば、本件事故による直接の受傷内容は頭部打撲、脳震盪症、頭面挫創、腰部右下腿左足打撲とこれに基因する変形性腰椎症、椎間板症であり、亡一郎の直接の死因は高血圧症、慢性腎炎に起因する尿毒症と窺われるところ、右受傷病名と直接死因とは医学上必然的な関連性が明白なわけではないし、成立に争いのない甲第四号証の記載も本件事故と死亡との因果関係を否定した右乙第二一号証の証明力を滅殺するに過ぎず、進んで積極的に右因果関係を肯認させるべき資料ではなく、また原告と訴外塚田との間に、本件事故と亡一郎の死亡との因果関係の存在を前提とする前記調停が成立したこと自体が右因果関係を認めさせるに十分な資料とならないことも論をまたない。その他右因果関係を肯認させるべき資料はなく、この点の原告の主張もまた理由がない。

四、よつて、被告に対する直接請求権を請求原因とする原告らの本位的請求は、その余の点を判断するまでもなく失当である。

五、次に原告らは予備的請求原因として、民法第四二三条により訴外塚田の被告に対する保険金請求権を同訴外人に代位して行使する旨をいうが、自賠責保険にあつては、被保険者たる加害者が保険会社に対して保険金請求権を有することによりただ反射的にのみ被害者の加害者に対する損害賠償請求権が確実化されるにすぎないとの迂遠な立場を捨てて、被害者をより厚く保護するため保険会社に対する直接請求権を認めているのであるから、右損害賠償請求権を保全するためにその権利を基礎とする保険金請求権を代位行使するが如き迂路は、元来自賠責保険制度の予定しないところというべきのみならず、先に見たように、自賠法第一五条により被保険者は被害者に対し損害賠償義務を履行した後に初めて保険会社に保険金を請求することができるにすぎないから、自賠責保険においては、未だ被保険者から損害賠償額の支払いを受けていない被害者が被保険者に代位してその保険金請求権を行使することは――賠償額の一部支払いを受けた被害者が、残額請求につき、既払分に対応する保険金請求権を代位行使するといつた例外的な事態を除けば――そもそも理論上ありえないものというべく、従つてこれを請求原因とする原告らの予備的請求もまた失当である。

六、以上のとおり、原告らの本件本位的および予備的請求はいずれも失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。(倉田卓次 浜崎恭生 鷺岡康雄)

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